作成日:2025/4/24 更新日:2025/4/24

英名Bearded seal
学名Erignathus barbatus
分類アザラシ科アゴヒゲザラシ属
分布北極海及びその周辺海域
大きさ200-250cm, 250kg
(北半球のアザラシで最大級、メスの方が大きくなる傾向がある)

アゴヒゲアザラシとは?

アゴヒゲアザラシはたっぷりと生えた顔周りのヒゲが特徴の大型のアザラシで、日本周辺海域でも見ることができます。
繁殖期になるとオスがまさに歌うように鳴き、メスにアピールをします。
とてもユニークな生態を持ったアザラシですが、国内での飼育個体数は少なく今後見られなくなる可能性が高い種類でもあります。


アゴヒゲアザラシは日本周辺にも来遊するが、ほとんど姿を見ることはできない。





分布・回遊

アゴヒゲアザラシは北太平洋と一部の北極海に生息しています。(2)

アゴヒゲアザラシの分布。Cameron et al. (2010)を参考に作成。


流氷に強く依存した生活史を持っていて、流氷とともに夏季に北上し晩秋には南下へ回遊します。(3)
3月中旬から5月中旬に繁殖期のピークを迎えます。
オトナのオスは海中でメスに対して特徴的な鳴き声を出してアピールします。


アゴヒゲアザラシの赤ちゃんは他のアザラシと異なり、生まれてすぐに海に入るようになり、授乳期間の約3週間の約半分の時間を海中で過ごします。(3)
繁殖期が終わり北上した後は分散して生活するため、詳細な生態研究があまり進んでいない種でもあります。


食性

アゴヒゲザラシはカジカの仲間やホッキョクダラなどの魚類のほか、ツブ貝やエビ類などの無脊椎動物を利用しています。(4)

ホッキョクダラはアゴヒゲアザラシを含む多くの海棲哺乳類の命を支えている。
キタザコエビは食用にもなる、茹でて食べると非常に美味。

砂の中の生き物を探しやすいように、アゴヒゲアザラシは他のアザラシよりもヒゲの本数がかなり多くなっています。

アゴが見えなくなるほどのヒゲを蓄えているのがアゴヒゲアザラシの特徴。
こちらはクラカケアザラシ。ヒゲはあるが、口元を覆うほどではない。


ヒゲの表面も、まるでアシカのヒゲのようなツルっとしています。このヒゲは非常に繊細なセンサーの役割をしていると考えられています。

砂を掻くために前肢の爪は大きく発達していて、さらに他のアザラシと異なり中指(第3指)が最も長くなっています。

アゴヒゲアザラシの前肢。第3指が長いので前肢のシルエットが四角形になる。
クラカケアザラシの前肢。指が斜めに並んでいるのが分かる。



鴨川シーワールドのFacebookにアップロードされている動画では、ゴマフアザラシとアゴヒゲアザラシのそれぞれの特徴について詳しく紹介されてましたので、そちらもご覧ください。


エサを捕まえる時は他のアザラシと違い、獲物を口で吸いこんで捕食します。


その際歯が削れてしまうため、アゴヒゲアザラシは他のアザラシよりも歯の摩耗が早いです。(5)


人間との関わり

アゴヒゲアザラシは生息地全体で狩猟が行われていて、イヌイットのような先住民にとっては現在でも貴重な資源となっています。(6)
食用としてはあまり利用しないようで、頑丈な革を靴底に使用するなど生活費実需品の一部として扱われているようです。
日本でも毛皮目的の狩猟が行われていた時期がありますが、ゴマフアザラシやゼニガタアザラシの方が数多く捕獲されていました。(7)

アゴヒゲアザラシに会える動物園・水族館

〇北海道
おたる水族館

〇関東
鴨川シーワールド

〇九州
大分マリーンパレス水族館うみたまご

参考資料

1.King, J. E. (1983). Seals of the World.(Second Edition) Cornell University Press, Ithaca, New York. 240 pp.
2.Cameron, M. F., Bengtson, J. L., Boveng, P. L., Jansen, J. K., Kelly, B. P., Dahle, S. P., … & Wilder, J. M. (2010). Status review of the bearded seal (Erignathus barbatus).[Link]
3.Kovacs, K. M. (2018). Bearded seal: Erignathus barbatus. In Encyclopedia of marine mammals (pp. 83-86). Academic Press.[Link]
4.Finley, K. J., & Evans, C. R. (1983). Summer diet of the bearded seal (Erignathus barbatus) in the Canadian High Arctic. Arctic36(1), 82-89.[Link]
5.Burns, J. J. 1967. The Pacific bearded seal. Alaska Department of Fish and Game, Pittman-Robertson Project Report W-6-R and W-14-R. 66 pp. [Link]
6.日下稜, 原田亜紀, & 杉山慎. (2021). 北グリーンランド, チューレ地区で使用されているグリーンランドイヌイットの毛皮衣類と毛皮を利用した狩猟道具の素材と機能. 北海道立北方民族博物館研究紀要30, 001-011.[Link]
7.吉田主基. (1957). 日本のアザラシ産業の紹介. 遠洋 27: 1-8pp.[Link]