作成日:2024/2/3 更新日:2024/2/3

英名Northern fur seal
学名Callorhinus ursinus
分類アシカ科
キタオットセイ属
分布北太平洋
大きさオス:213cm, 272kg
メス:150cm, 50kg

キタオットセイとは?

キタオットセイはアシカの仲間で、その名の通り太平洋の北部に広く分布しています。
時期によっては北海道~関東の沖合で野生のキタオットセイを観察できます。
またごく限られた施設ではありますが、水族館でも見ることができます。

静岡県にある伊豆・三津シーパラダイスでは全国で最も多くのキタオットセイを見ることができる。

キタオットセイはオス・メスで体の大きさが違っており、たびたび親子だと間違われます。

キタオットセイのオス(奥)とメス(手前)。アシカの仲間の中では最も雌雄で体格差がある種類。

野生下では人間による毛皮目的の乱獲を受け、絶滅寸前まで数を減らした時代があります。
また近年では漁網内の魚を食い荒らすなどの漁業被害が報告されており、人間との共存の道が求められています。

ゼニガタアザラシによって食害されたサケ。キタオットセイもホッケなどさまざまな魚を食害することが分かっている。



分布・回遊

キタオットセイは北太平洋に広く分布しています(1)

キタオットセイの分布。Gentry(2009)を参考に作成。


夏になるとロシアやアメリカなどの一部の国の島々で繁殖を行い、冬になるとエサを求めて大規模な回遊生活を送ります。(2)

キタオットセイの分布と繁殖地。

冬~初夏には日本周辺にも来遊し、津軽海峡や銚子沖では船上で野生のキタオットセイを観察することができます。(3)(4)
真冬の海を漂うキタオットセイの美しさと力強さには出会うたび心が躍ります。

津軽海峡で出会ったキタオットセイの群れ、ラッコのように水面で休息している。

エサ

キタオットセイは主にイワシやイカナゴなどの小魚や、イカなどを捕食します。
また環境の変化に対応するように、季節や場所によって利用する魚種を変えています(日和見的捕食者)。(5)

イカナゴは北海道や東北太平洋側で多く漁獲される。
北国では冬の風物詩として重宝されるマダラ。高値で取引されるが、これもオットセイは利用している。
中深層性のイカはキタオットセイにとって貴重な食料。写真はゴマフイカ。


人との関わり

発見~乱獲の時代

キタオットセイが発見されたのは1741年で、デンマーク人のベーリングが率いる探検隊が嵐で船が難破した際に上陸した島で目撃されたのが最初の記録となっています。当時はヨーロッパを中心に世界中が毛皮産業が盛んになっており、ベーリング探検隊はクロテンというイタチの仲間を求めて極東の地にやってきていました。キタオットセイと同時にラッコも発見され、生き残った探検隊の隊員(ベーリングを含む多くの隊員が島で病死)によってラッコの毛皮がヨーロッパへ持ち込まれました。(6)

水中でも体温を維持するために高密度の体毛を持つラッコの毛皮は、高値で取引されるようになり、乱獲されるようになりました。

ラッコの毛皮。ぎっしりと詰まった体毛は哺乳類の中で最も密度が高い。



キタオットセイより毛皮としての価値が高かったラッコは真っ先に捕獲されるようになりました。
1741年にベーリング探検隊によって発見されたラッコは、その後無差別に乱獲され、1762年にはコマンダー諸島では姿が見られなくなりました。
それでも上質な毛皮を求めて、わずかに残ったラッコと、ラッコと同じ海域に生息していたキタオットセイが乱獲されるようになりました。

キタオットセイの毛皮。上毛と下毛の二重構造になっていて効率よく体温を維持できるようになっている。



アラスカのプリビロフ諸島では1780年代には200~250万頭のオットセイが生息していたとされていますが、1880年代には最大で年間12万頭ものオットセイが捕獲されました。(7)

陸揚げされたキタオットセイの毛皮。「農商務省水産局『膃肭獣猟業沿革乃其将来』(函館市史より)。


保護の時代

乱獲の影響を受けて、当初200万頭以上が生息していたプリビロフ諸島では1910年頃には30万頭まで減少していました。(7)

繁殖場の一つであるプリビロフ諸島で1891~1965年に捕獲されたキタオットセイの個体数。1942年に大幅に減少している。捕獲数が減少したのは、個体数自体が激減したためだ。



1911年日本、アメリカ、カナダ、ロシアの4国によってオットセイ保護条約が調印されました。
この条約はキタオットセイの毛皮の市場価格が乱獲によって下がることを防ぐ目的もありましたが、キタオットセイの個体数減少に歯止めをかけ、一定水準を維持するためというのもありました。
この条約を受けて日本でも「臘虎膃肭臍猟獲取締法(らっこおっとせいりょうかくとりしまりほう)」が制定されました。
この法律は現在も有効なものであり、ラッコとオットセイを捕獲することを禁止する、というものです。


↓臘虎膃肭臍猟獲取締法の原文(e-GOV 法令検索より引用)

明治四十五年法律第二十一号臘虎膃肭獣猟獲取締法
第一条 農林水産大臣ハ農林水産省令ノ定ムル所ニ依リ臘虎又ハ膃肭獣ノ猟獲ヲ禁止又ハ制限スルコトヲ得臘虎又ハ膃肭獣ノ獣皮又ハ其ノ製品ノ製造若ハ加工又ハ販売ニ付亦同ジ 前項ノ規定ハ同項ノ規定ニ依ル禁止又ハ制限ニ違反シテ猟獲シ製造シ加工シ又ハ販売シタル臘虎膃肭獣又ハ其ノ獣皮若ハ其ノ製品ノ所持ニ付之ヲ準用ス
第二条 農林水産大臣ハ前条ノ規定ニ依リ禁止又ハ制限ヲ為サントスルトキハ予メ公聴会ヲ開キ利害関係人及学識経験者ノ意見ヲ聴クコトヲ要ス
第三条 削除
第四条 漁業法第百二十八条第一項ノ漁業監督官又ハ漁業監督吏員ハ同条ノ例ニ依リ本法ノ励行ニ関スル事務ヲ掌ル
第五条 第一条ノ規定ニ依ル禁止又ハ制限ニ違反シタル者ハ一年以下ノ懲役又ハ十万円以下ノ罰金ニ処ス
第六条 前条ノ犯罪行為ニ供シタル船舶船具猟具及第一条ノ規定ニ依ル禁止若ハ制限ニ違反シテ猟獲シ若ハ所持シタル臘虎膃肭獣又ハ同条ノ規定ニ依ル禁止若ハ制限ニ違反シテ製造シ加工シ販売ニ供シ若ハ所持シタル臘虎膃肭獣ノ獣皮若ハ其ノ製品ニシテ犯人ノ所有スルモノハ之ヲ没収スルコトヲ得若其ノ全部又ハ一部ヲ没収スルコト能ハサルトキハ其ノ価額ヲ追徴スルコトヲ得
附 則 本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス 臘虎膃肭獣猟法ハ之ヲ廃止ス 附 則 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム 本法施行前従前ノ罰則ヲ適用スベカリシ行為ニ付テハ仍従前ノ例ニ依ル 附 則 この法律は、公布の日から施行する。 この法律施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。 附 則 この法律は、公布の日から施行する。 附 則
(施行期日) 第一条 この法律(第二条及び第三条を除く。)は、平成十三年一月六日から施行する。 ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。 第九百九十五条(核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律の一部を改正する法律附則の改正規定に係る部分に限る。)、第千三百五条、第千三百六条、第千三百二十四条第二項、第千三百二十六条第二項及び第千三百四十四条の規定 公布の日
附 則
(施行期日) 第一条 この法律は、公布の日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
附 則 (施行期日) この法律は、刑法等一部改正法施行日から施行する。 ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。 第五百九条の規定 公布の日



共存の道を探して

各国の規制やそもそもの毛皮ブームの衰退に伴って、捕獲数が減ったキタオットセイは個体数を回復させていきました。
しかし2000年代に入ってからは、北海道などの一部の地域で漁業被害が問題視されるようになってきました。(8)
漁業被害とはキタオットセイが漁網に入った魚を食べたり、漁具を破壊してしまうことです。

北海道におけるキタオットセイによる漁業被害額。漁具などの破損を「直接被害」、漁獲物の食害による価値の低下を「間接被害」と分けて示している。北海道庁HPを参考に作成。



ゼニガタアザラシが食害したサケ。キタオットセイの漁業被害は2017年以降減少傾向ではあるが、今後も長期的な調査が必要となっている。



現在では国や自治体、大学が協力してキタオットセイの漁業被害を低減する方法を調べています。
昔のように個体数を激減させることなく、キタオットセイと共存する道が求められています。



キタオットセイに会える動物園・水族館

〇東北
浅虫水族館
アクアマリンふくしま


〇東海
伊豆・三津シーパラダイス

〇中国
玉野海洋博物館

参考文献

1.King, J. E. 1983. Seals of the World.(Second Edition) Cornell University Press, Ithaca, New York. 240 pp.
2.Gentry, R. L. (2009). Northern fur seal: Callorhinus ursinus. In Encyclopedia of marine mammals (pp. 788-791). Academic Press.[Link]
3.Kuzin, A. E. 1999. The Northern Fur Seal. Russian Marine Mammal Council, Moscow, 395 pp. (in Russian).
4.和田一雄, 伊藤徹魯. (1999). 鰭脚類―アシカ・アザラシの自然史―.東京大学種出版, 東京. 284pp.
5.Yonezaki, S., Kiyota, M., & Baba, N. (2008). Decadal changes in the diet of northern fur seal (Callorhinus ursinus) migrating off the Pacific coast of northeastern Japan. Fisheries Oceanography17(3), 231-238.[Link]
6.和田一雄. (1997). ラッコ・オットセイ猟業の成立・変遷と資源管理論 (1). 野生生物保護2(2), 93-120.[Link]
7.Riley, F. (1967). Fur seal industry of the Pribilof Islands, 1786-1965 (Vol. 275). US Bureau of Commercial Fisheries.[Link]
8.北海道庁.(2022).海獣類による漁業被害状況.[Link]