作成日:2023/1/29 更新日:2023/11/1

英名Walrus
学名Odobenus rosmarus
分類セイウチ科
セイウチ属
分布北極、亜北極の沿岸域
大きさオス:3.2m, 1215kg
メス:2.6m, 810kg

セイウチとは?

セイウチは北極や亜北極の沿岸に生息し、その大きな牙が特徴的なひれあし類の1種です。体重が1トンを超えることから、漢字では「海象」と表記します。大きな体からはイメージできない多様な動きができるため、水族館の人気者である一方、たびたびトドと混同されるなどその生態にはミステリアスな部分が多い種類です。

分布・回遊

セイウチは①タイヘイヨウセイウチと②タイセイヨウセイウチの2つの亜種に分けられます。(2) (以前はラプテフセイウチを含めた3亜種とする説も提唱されていましたが、現在ではラプテフセイウチを①タイヘイヨウセイウチとする説が有力です)

①タイヘイヨウセイウチはロシア東部とアラスカの間にあるチュクチ海、ベーリング海や東部ロシアの北極圏に生息しています。②タイセイヨウセイウチはカナダ北極圏、グリーンランド沿岸、ノルウェーのスバールバル諸島、ロシアのノヴァヤゼムリャ沿岸に生息しています。(3)(4)

セイウチの分布図。Lowry, L. F. (2016)Kovacs et al.(2015)を参考に作成。

①タイヘイヨウセイウチは冬はベーリング海で過ごします、夏になるとメスとコドモは海氷とともに北上し、チュクチ海で過ごします。それに対しオスはベーリング海に留まります。(5)
②タイセイヨウセイウチについてはあまり研究が進んでいませんが、グリーンランド西部の個体群は夏になると、デービス海峡を渡って400km以上離れたバフィン島へと移動するそうです。(6)(7)

オスのセイウチは、夏には高密度の群れをつくる。
メスやそのコドモは、繁殖期になるとオスから離れて流氷上で生活する。

エサ

セイウチの主な餌は二枚貝や巻貝、ゴカイやイソメの仲間、ナマコ、タコ、魚などさまざまで、海鳥やワモンアザラシ、アゴヒゲアザラシなどのひれあし類も食べていた報告もあります。(8)(9)(10)

2枚貝が主な餌で、1時間に80~250個も食べる報告もある。(写真はホッキガイ)
時にはアザラシもエサとする。(写真はワモンアザラシ)

エサを食べるときは、砂の中に隠れた貝を唇やヒゲで探したり、口から水を吹きかけたり、前肢で泥を払って掘り出します。

口回りのヒゲは、高性能のセンサーとしての機能を持っている。このヒゲで砂の中に隠れた小さな餌も見つけ出す。

セイウチは特徴的な大きな牙以外にも、口内に小さい歯が生えています。その歯を使って貝の殻を砕いて中身だけを食べます。

口の奥の方には小さな歯が生えている。

人との関わり

タイヘイヨウセイウチについては18~19世紀には大規模な捕獲が行われました。(11)
その影響で少なくとも20万頭はいたといわれていた個体数が1950年代には5~10万頭まで減少しました。(12)

タイセイヨウセイウチについても同様に乱獲が行われ、ノルウェー・スバールバル諸島ではほぼ消滅してしまいました。(13)(14)(15)
その後は世界的に保護が進み、特に先駆けて狩猟を禁止したスバールバル諸島で個体数が回復しています。

現在ではイヌイット族やロシアのチュクチ族、ユピック族だけが伝統的捕獲が許可されているだけとなっています。

日本ではたった3例(北海道2例、三重県1例)しか保護事例しかありません。そのうち1877年に北海道・函館市で捕獲された個体は、日本で唯一の捕獲例となっています。その個体のはく製は、函館市北洋資料館で展示されています。

セイウチに会える水族館・動物園

〇北海道
おたる水族館

〇関東
鴨川シーワールド
八景島シーパラダイス

〇東海
伊豆・三津シーパラダイス
鳥羽水族館
伊勢シーパラダイス
南知多ビーチランド

〇関西
城崎マリンワールド

〇九州
大分マリーンパレス水族館うみたまご

参考文献

1.King, J. E. (1983). Seals of the World.(Second Edition) Cornell University Press, Ithaca, New York. 240 pp.
2.Committee on Taxonomy. (2016). List of marine mammal species and subspecies. Society for MarineMammalogy, www.marinemammalscience.org
3.Lowry, L. (2016). Odobenus rosmarus. The IUCN Red List of Threatened Species 2016:e.T15106A45228501. https://dx.doi.org/10.2305/IUCN.UK.2016-1.RLTS.T15106A45228501.en.
4.Kovacs, K. M., Lemons, P., MacCracken, J. G., & Lydersen, C. (2015). Walruses in a time of climate change. Arctic Report Card, 2015, 66-74.
5.Fay, F. H. (1982). Ecology and biology of the Pacific walrus, Odobenus rosmarus divergens Illiger. North American Fauna, (74 (74)), 1-279.
6.Dietz, R., & Born, E. W. (2009). Movements of walruses (Odobenus rosmarus) tracked with satellite transmitters between Central West Greenland and Southeast Baffin Island 2005–2008 In: Kovacs K, Acquarone M, Stewart REA, editors. Studies of the Atlantic walrus, 53-74.
7.Andersen, L. W., Born, E. W., Stewart, R. E., Dietz, R., Doidge, D. W., & Lanthier, C. (2014). A genetic comparison of West Greenland and Baffin Island (Canada) walruses: Management implications. NAMMCO Scientific Publications, 9, 33-52.
8.Maniscalco, J. M., Springer, A. M., Counihan, K. L., Hollmen, T., Aderman, H. M., & Toyukak Sr, M. (2020). Contemporary diets of walruses in Bristol Bay, Alaska suggest temporal variability in benthic community structure. PeerJ, 8, e8735.
9.Lovvorn, J. R., Wilson, J. J., McKay, D., Bump, J. K., Cooper, L. W., & Grebmeier, J. M. (2010). Walruses attack spectacled eiders wintering in pack ice of the Bering Sea. Arctic, 53-56.
10.Lowry, L. F., & Fay, F. H. (1984). Seal eating by walruses in the Bering and Chukchi Seas. Polar Biology, 3, 11-18.
11.Bockstoce, J. R., & Botkin, D. B. (1982). The harvest of Pacific walruses by the pelagic whaling industry, 1848 to 1914. Arctic and Alpine Research, 14(3), 183-188.
12.Fay, F. H., Eberhardt, L. L., Kelly, B. P., Burns, J. J., & Quakenbush, L. T. (1997). STATUS OF THE PACIFIC WALRUS POPULATION, 1950–1989 1. Marine Mammal Science, 13(4), 537-565.
13.Stewart, D. B., Higdon, J. W., Reeves, R. R., & Stewart, R. E. (2014). A catch history for Atlantic walruses (Odobenus rosmarus rosmarus) in the eastern Canadian Arctic. NAMMCO Scientific Publications, 9, 219-313.
14.Born, E. W. (1984). Status of the Atlantic walrus Odobenus rosmarus rosmarus in the Svalbard area. Polar Research, 2(1), 27-45.
15.Kovacs, K. M., Aars, J., & Lydersen, C. (2014). Walruses recovering after 60+ years of protection in Svalbard, Norway. Polar Research, 33(1), 26034.