今回紹介するのは、『世界アシカ・アザラシ観察記』です。

ISBN:978-4-13-063957-6
出版社:東京大学出版
著者:水口 博也
初版出版:2023年4月5日
サイズ:四六判 242ページ
定価:6,900円+税

この本の魅力

 世界中のひれあし類の生息地の様子が目に浮かぶような文章
 海外種の現地での生態についても解説されている、学術的価値の高い情報
 世界の果てまで行った人にしか見えない、人と自然の関わり合い

2023年4月に発売された『世界アシカ・アザラシ観察記』はもう皆さん手にされたでしょうか?
この本を書かれたのは、以前紹介した『世界一美しいアシカ・アザラシ図鑑』を書かれた水口博也さんです。

『世界一美しいアシカ・アザラシ図鑑』はその名の通り美しい写真ともに、生態解説がされている良本でした。


それに対し『世界アシカ・アザラシ観察記』は水口さん自身の活動にフォーカスして、各地のアシカ・アザラシとの出会いや実際に水口さんが感じられたことを紹介した本です。

ひれあし類の生息地の様子が目に浮かぶような文章

前作の『世界一美しいアシカ・アザラシ図鑑』にもあるように、水口さんは各地のひれあし類の撮影を行ってきました。
この本では現地の地形や、景色、体感した気候などが詳細に書かれています。
ひれあし類好きにとって、一度は行って見たいひれあし類たちのふるさとですが、そのほとんどは北極や南極といった極地です。

とても簡単に行ける場所じゃないよね、、、


水口さんの細やかな言葉遣いから紡ぎだす、自然の風景はまるで私たちまで実際に見たような気持ちにさせてくれます。

現地での生態に関する学術的価値の高い情報が満載

ひれあし類たちの現地での様子や行動についても紹介されていましたが、特に目を引いたのは、同所に暮らす複数種のひれあし類の様子です。
ひれあし類は現在35種いるのですが、地域によってはほとんど同じ場所に複数種が暮らしています。

彼らがどんな暮らしをしているのか気になります!


この本では、異なった種同士がどのように関わりあって、または関わりあわないでいるのかが描かれていました。
水口さんご自身の観察によって見えてきたこと以外にも、かなりの論文(新しい論文もたくさんありました)を引用して解説されており、非常に信頼性の高い情報となっています。
なお本の最後には引用文献一覧もあったので、ひれあし類の勉強を始めたい方にも非常におすすめの一冊です。

世界の果てまで行ったから見える、今の地球の様子

個人的に非常に心惹かれたのは、今地球がどのような状態になっているのか、これからどうする必要があるのかという水口さんの思いが、本の所々で書かれていたことです。
北極の流氷や海洋ごみの様子、現地の人との交流によって見えてくる環境問題の深刻化など、世界の果てまで行った堅田から見えてくるリアルな地球の様子が伝わってきました。

私は「ひれあし類のこと知れてよかった」、「ひれあし類をもっと好きになった」、そして「ひれあし類のために自分も考えてみたい」って思いました。


ひれあし類は水と陸の世界を巧みに利用する生き物です。
それゆえに、どちらの環境も保たれないとその命を繋ぐことはできません。
自然環境の変化を大きく受けるひれあし類を見てきた水口さんの思いが、この本を通じて伝わってきたような気がしています。

コンパクトな本なので、旅のお供に持ち歩くこともできます。
ぜひ皆さんも、水口さんの言葉を通じて、ひれあし類の世界を観察してみてはいかがでしょうか?