作成日:2023/1/8 更新日:2023/1/8

英名Harbor seal
学名Phoca vitulina
分類アザラシ科
ゴマフアザラシ属
分布北部太平洋、北部大西洋
大きさオス:1.8m, 170kg
メス:1.6m, 140kg

ゼニガタアザラシとは?

ゼニガタアザラシは北大西洋と北太平洋に生息する中型のアザラシで、日本では一年中見ることができます。
体に古銭のような模様があるので、「ゼニガタ(銭形)」という名前がついています。

ゼニガタアザラシの幼獣(左)と成獣(右)。ゼニガタアザラシは出生時には成獣と同じ黒っぽい体色をしている。

北海道ではアザラシウォッチングなどの観光資源になっている一方、漁業への被害も報告されています。
かわいらしいイメージと異なった事情も抱えている動物なのです。

サケを捕食するゼニガタアザラシ。野生下では秋に漁網内のサケを捕食することが知られている。

分布・回遊

ゼニガタアザラシは北大西洋と北太平洋の温帯、亜北極に生息し、一部の個体は北極海にも生息しています。(2)
ゼニガタアザラシは3つの亜種が確認されており、中には淡水に生息しているものもいます。

ゼニガタアザラシの分布。

日本では北海道のみに生息しており、東部沿岸~えりも岬にかけていくつかの上陸場が確認されています。(3)
特にえりも岬では1000頭以上のアザラシが暮らしています。

日本国内におけるゼニガタアザラシの分布と上陸場、繁殖場。


国内最大の繁殖地であるえりも岬。目の前に広がる岩礁域にゼニガタアザラシが集まってくる。

食性

ゼニガタアザラシはタコ、イカなどの頭足類や甲殻類、他にもアイナメやヒラメなどの魚類を食べています。(4)
地域や時期によって食べるものを柔軟に変化させており、年齢や性別によっても利用するエサが違っていることもわかっています。

ゼニガタアザラシは頭足類を多く捕食する(写真はミズダコ)。


ゼニガタアザラシは季節や海域によって利用するエサを巧みに変化させる(写真はヤリイカ)。

人間との関わり

乱獲の時代

日本では1945年頃に、毛皮や脂肪を目的とした狩猟が行われていたそうです。
毛皮は防寒具や敷物に、脂肪は天ぷら油や船の潤滑油として利用されていました。(5)
この頃の乱獲と土地開発による環境悪化で、アザラシの個体数は激減したと考えられています。

アザラシ(種は不明)の毛皮で作られたバック。

調査や保護活動の時代

1970年代から始まった野外調査によって、ゼニガタアザラシが絶滅寸前であることが分かりました。(6)
研究者たちによってゼニガタアザラシの天然記念物への指定と保護活動が求められましたが、国による保護はなかなか認められませんでした。

1982年からは帯広畜産大学で設立された「ゼニガタアザラシ研究グループ」による生息数調査が行われるようになりました。
この頃から毛皮目的の狩猟が無くなり、アザラシの個体数は少しずつ増加していきました。
それでも北海道全体でも約350頭と危機的な状況ではありました。

えりも岬におけるゼニガタアザラシの最大上陸個体数(1983年~2010年)。Kobayashi et al.(2014)を参考に作成。

共存を目指す時代

1998年にようやくゼニガタアザラシが絶滅危惧IB類に指定され、国による保護活動が始まりました。
その後個体数は順調に回復し、2008年には個体数 (換毛期の最大上陸個体数)が1,000頭を超え、2012年には絶滅危惧Ⅱ類へ格下げとなりました。(6)
その一方で近年はゼニガタアザラシによる漁業被害 (漁獲物を食い荒らしたり、漁具を壊すこと)も問題となっています。(7)
今後はアザラシを激減させることなく、漁業と共存する方法が求められています。

ゼニガタアザラシに食害されたサケ。

ゼニガタアザラシに会える動物園・水族館

〇北海道
円山動物園
釧路市動物園
おたる水族館
登別パークニクス
室蘭水族館

〇東北
浅虫水族館

〇関東
上野動物園
鴨川シーワールド
横浜・八景島シーパラダイス

〇近畿
城崎マリンワールド

〇中国・四国
新屋島水族館

参考資料

1.King, J. E. (1983). Seals of the World.(Second Edition) Cornell University Press, Ithaca, New York. 240 pp.
2.Teilmann, J., & Galatius, A. (2018). Harbor seal: Phoca vitulina. In Encyclopedia of marine mammals (pp. 451-455). Academic Press.[Link]
3.Mizuno, M., Kobayashi, M., Sasaki, T., Haneda, T., & Masubuchi, T. (2020). Current population genetics of Japanese harbor seals: Two distinct populations found within a small area. Marine Mammal Science36(3), 915-924.[Link]
4.Jimbo, M., Kita, Y. F., Kobayashi, M., & Mitani, Y. (2021). Intraspecific differences in the diet of Kuril harbor seals (Phoca vitulina stejnegeri) in Erimo, Hokkaido, using DNA barcoding diet analysis. Mammal Research, 63, 553-563.
5.中岡利泰. (2004). 襟裳岬におけるゼニガタアザラシと人の関わり. 北海道の海生哺乳類管理ーシンポジウム「人と獣の生きる海」報告書ー (小林万里, 磯野岳臣, 服部薫 編), pp97-107, 北の海の動物センター.
6.Kobayashi, Y., Kariya, T., Chishima, J., Fujii, K., Wada, K., Baba, S., … & Sakurai, Y. (2014). Population trends of the Kuril harbour seal Phoca vitulina stejnegeri from 1974 to 2010 in southeastern Hokkaido, Japan. Endangered Species Research24(1), 61-72.[Link]
7.北海道庁. (2022). 北海道アザラシ管理計画(第3期). [Link]